右側通行

廊下を走ってはいけません

貞子vs伽椰子を見ました※ネタバレ


① すごく怖い
② 本当に怖い
③ 周辺事があまりにもおもしろい


誰だよホラー苦手でも楽しめますとかギャグですとか言ったの!!!!!!

うかうか見に行って死ぬほど後悔して帰りましたがおもしろかったとは思う。言うほどロジックがすっきりとおっているかは微妙で(たとえば鈴香ってわざわざ家の中で呪いのビデオ観る必要あった? 家に入る前に見ていけばよくない? とか)、あと呪いのビデオは原典版の方が好きだな… 等々思うところはいろいろあるのだが楽しかった。呪いのビデオって、あの断片的な映像であるところがこわくてよくない? って言っても原典の方もサイコロのことしか覚えてないけど。

ホラーは本質的にミステリの要素をはらんでいるけど、貞子と伽椰子についてはミステリの部分、それぞれのもつ謎とバックグラウンドはもうそれぞれの物語の中で明らかになっていて、この映画の中での恐怖はホラーというよりテラーに近かった。「得体の知れないものへの恐怖」ではなく、「確実に自分に害を与えてくるものへの恐怖」。

なんだけど、物語そのものに間がない分「恐怖の予感」を見せつけてくる瞬間的な間の取り方がものすごくうまい。既に正体のわかっている貞子や伽椰子と俊雄の、彼らの存在そのものではなくて人間側キャラクターの現実に浸食してくる力、発生する事象への恐怖の予感をはらんだ緊迫感した間が本当に怖くて体力を消耗するし、ギリギリまで密度を高めたあと、空気をパンパンに詰めた風船に針を刺すように一瞬で鋭く飽和させられるのが、怖い反面なんというかカタルシスがあった。だからホラーって人気あるんだよな! っていうこのカタルシス。

リングと呪怨は名実ともに確かに日本の二大ホラーだと思うけど、こうやって同作品の中に同居したときの貞子と伽椰子と俊雄のビジュアル面の差もおもしろい。貞子は長い髪に覆われて顔も見えず、ガクガクとぎこちない動きからも直球で怖いというよりも「得体の知れない不気味さ」がある。対して伽椰子と俊雄はビジュアルがもう怖い。望まぬ痛ましい死に方をしましたよーという無念を見た目からして主張してくる。貞子よりも「人間だった」ことがはっきりわかるので、もっと直接的に怖い。

だからたぶん貞子vs伽椰子というのは直接対決のことだけを指すのではなく、邦画ホラーの二大ヒーロー(ヒロイン)(この表現は正しいのか?)である二人のなんというか、在り方そのものの対決なんだと思う。「どっちが勝つか?」で投票を募ったのも、そういう意味だったんだろう。だから直接対決に持っていくまでの前半は、独立した二つのストーリーが動いていて、彼らそれぞれの在り方をはっきり描いている。
対人間の貞子の最初の見せ場、冒頭の老人宅での民生委員視点のシーンは、純正和風ホラーといった趣で、背骨からぞわぞわ悪寒が上ってくる感じの怖さだ。一瞬台所に老女の後ろ姿を見せておいて、戸を開けると消えている演出なんて実に趣深い。演出センス満点だと思う。呪いのビデオを信じていなかった中古屋の店員が、表情の見えない顔でふらふら高所から姿を現すところもとてもよい。
そして俊雄くん大活躍の伽椰子たち側の対人間の見せ場、小学生大虐殺シーンは、とにかく俊雄くんのアクション・アクション・アクション! という感じだ。大変アクティブである。座って鳴いてるだけじゃねえんだぜ!
いじめっ子たちを全員片づけて、ほっと一息ついた瞬間にいじめられっ子を引きずり込むアクションもかっこいい。というかこれはたぶん見返さないとはっきりわからないんだけど怖いから二度と見返したくないんだけど、あの最後の子を引きずり込んだのだけは俊雄くんではなくて伽椰子ではなかったか? とぱっと見たときなんとなく思って、だって俊雄くんはあのいじめられっ子を助けてやったんじゃないだろうか。彼が殺されずにいじめっ子たちを全員まんまと家の中へ引きずり込んだのは、俊雄くんがその猶予をやったからではないのか。と考えると俊雄くんのことがちょっといじましく思えてくる。でもどっちにしろ怖いです。

というわけで種類の違う、でも間違いなく強力な、二つの呪いを存分に描いた後、登場するのがこちらも強力そうな二人の霊媒師である。霊媒師。霊媒師だ。霊媒師ってなんなのだろう。
そもそも経蔵の前振りである法柳さんが出てきた時点で、「なんか2chの怖い話スレみたいになってきたな……」と思っていたのだが(ちなみに法柳さんが夏美の横っ面ひっぱたいた瞬間に「ああこの人絶対噛ませだ……かわいそうに……」と思った)、経蔵と珠緒に至っては「おい突然ジャンルが変わったぞ」という感じだった。純正和風ホラー映画もクソもない。どちらかといえば「エクソシスト」とか講談社青年コミックスとかに出てきそうなキャラクターである。なんというか「キャラが立ちすぎている」。手でヒュッヒュッとして貞子の髪の毛捕獲するとかやっちゃうし。それをそのあと呪いの家で護身用みたいに使ったのはちょっと笑った。モンスターボールかよ。

ただ、「ジャンルが違う」という印象を抱くことで、「なんとかなりそう」「この二人なら勝てそう」というなんとはなしの希望も湧いてくる。ホラーから悪魔祓い活劇に転換したことで、ストーリーにも余裕が生まれるし、キャラクター造形がいかにも「テンプレート的な強キャラ」っぽいのだ。単に強い味方キャラというよりもある種のジョーカー、制約付きで一時的に主人公たちに手を貸してくれる、常に味方になっちゃうと逆にこっちが興ざめするようなゲームバランスを崩しかねない強力なカード、みたいなやつ。
「森繁先生と法柳さん」という、女子大生二人が一縷の望みをかけて切った対抗カードが、無残に歯も立たず一網打尽にされた直後に登場するのも気が利いている。惨劇のあとや人の死に全然ひるまないのも強キャラっぽい。珠緒の「この人すごい無駄死にだね」とか、山本美月は「そんな言い方……」みたいに怒ってたけどあっけらかんとした言い方もあいまってすごい笑ってしまった。周囲が全然笑っていなかったのでちょっと気まずかった。

二人の登場をキーにしてストーリーはどんどん対決に向けて転がっていく。最後の対決シーンの人数を絞るために、余分な関係者をバッサバッサと片づけていくあたりなんかいっそ爽快だ。夏美の場合は切り捨てるというより、「呪いのビデオがネットワークを通してばらまかれた」「自殺は不可能」という伏線を撒くために死なせたんだろうけど、鈴香の両親とかそれこそ無駄死にな気がする。いやでも鈴香の母親は初めて伽椰子に直接始末された人間なので、やっぱり必要な死だったのかな。あとこのシーン、いじめられっ子小学生の後ろ首のところからニョっと出てくる、映画版ハリーポッターと賢者の石のヴォルデモートみたいな俊雄くんの演出点かなりハイスコアだった。個人的に。
といいつつこの辺で「円満解決はないし全員死ぬんだろうな」という予想もつく。ヒロイン二人とも「自分の行動がきっかけで友人や家族を亡くしている」からだ。たぶん生き残る方がつらいし、それはそれでまたジャンルが変わってしまう。
余談だが、有里と夏美のくだり(恐らく)がネットでは百合だと持て囃されたりもしたみたいだけど、こっちとしては夏美の行動がサイコすぎて全然それどころじゃなかった。呪いの動画をばらまくところから「一人で死ぬのは怖いから見てて」と言い放つにいたるまで、「えっなんで!? なんでそんなことすんの!?」の連続である。怖い。たぶん貞子より怖い。「なんで私がこんな目に」から「みんな死んじゃえばいい」の発想の飛躍がなんというか「よく今まで普通に生きてこられたな……よくがんばりました……」みたいな感じだ。怖い。
そしてここで電波の波に乗れたのでいいようなものの、呪いのビデオの「他人に見せると呪いが解ける」が否定されたのはちょっと「うん?」と思った。少なくとも「らせん」時点では貞子の本質の半分は「種痘」からくる「感染」で、そこが否定されるとなんのためにビデオを媒介としているのかちょっとよくわからなくなってしまう。これではただの快楽無差別殺人犯である。まあそこが逃げ道として機能しちゃうと対決に持ち込めないもんな。

関係者を全員始末して、人間側のヒロイン二人と霊媒師二人、「バケモノ」側のヒロイン二人と実働部隊俊雄くんだけにキャラクターを絞ってとうとう展開される対決シーンは、純粋に楽しい。なんというかもうおもしろいとか怖いとかじゃなくて楽しい。ドリームマッチだ。はっと身をすくめて横っ飛びに逃れた俊雄くんを、貞子の髪がとらえてテレビに引きずり込む一瞬の攻防なんか、もうカンフー映画を見ている気分だった。あっそういえばさあ法柳さんに頭突きされた森繁先生の顔が派手に左右に割れるのもカンフー映画っぽい演出だよね。
そして、一瞬で退場させられてしまった俊雄くんの仇討を果たすため(かどうか知らんけど)、真打伽椰子が満を持して登場。あまりの恐怖で絶叫をあげつづけるヒロイン(人間)の悲鳴をBGMに、ヒロイン(バケモノ)の頂上決戦が始まる。ここも本当に見ていて楽しかった。というか貞子が強すぎてこの数分だけ心が小学三年生男子だった。気分だけは推しドルのコンサートである。キャー貞子ー! 応援上映させてー!!

というかめちゃくちゃ物理的な戦闘でしたね。

まあわたしは貞子びいきだったから大変盛り上がったのだが、伽椰子びいきの人は不満だっただろうとも思う。ちょっと貞子がかなり強かった。決着はつかなかったものの、貞子がだいぶ押していたように見えるし、判定なら貞子に軍配が上がるだろうと思うのは贔屓目ではないはずだ。そもそも貞子はソロで伽椰子と俊雄くんの二人を相手取っているわけだし。そういえば伽椰子と俊雄くんのタッグプレイとかも楽しそうだよな。
あとこの戦闘中人間側のヒロイン二人がずっと叫び通しでとてもかわいそうだったので、途中からは経蔵てめえ何やってんださっさと来い!! みたいな気持ちだった。ただ、ホラー映画におけるヒロインの役目の一つは「観客に感情移入させること」だとも思うので、ここはいっそペンライトでも振ってくれてもよかった気もする。貞子派の有里と伽椰子派の鈴香にわかれて。応援上映お待ちしています。

案の定食い合って呪いが打ち消されるなんて都合よくはいかず(「この手は使いたくないんだが……」とか言いながら準備してる二の矢は九分九厘使うはめになるから経蔵は今度から気をつけてくれ)、場面は片方が人柱になって封印するという第二フェーズに移行。年下の玉城ティナをかばって自分が犠牲になることを決める山本美月。覚悟を決めた表情で井戸のふちに立つ山本美月。恐れを捨てて決然と井戸に飛び込む山本美月。文句なしにヒロイックで美しいシーンである。
そしてそれを台無しにする貞子と伽椰子の全力疾走及び全面対決(物理的に)!!
全力で走ったあと井戸の上でバン!! と真正面からぶつかったところはさすがに笑ってしまった。フュージョンの結果爆誕する、ここだけ特撮映画になったのか? みたいなグロテスクな怪物もけっこうおもしろかった。突然文脈がホラーからパニックムービーになるので、このシーンだけまじで全然怖くないのだ。これわざとやってるだろ。
ここの山本美月の最後の表情もいまだにけっこう謎で、なんか絶望……って感じの顔じゃなくて「ああこれでやっと終わるのね……」みたいな顔だったので、一瞬山本美月が聖母と化して怪物を腹に受け入れ眠りにつくのかと思いました。
そんなことはなかった。

井戸に乗せたそんなもん役に立つわけねーだろ! みたいなぺらぺらの蓋が吹っ飛ぶところまではまだパニックムービーだった。このままハイテンションで突っ切るのか!? と思わせておいて、最後の最後にホラーに戻してきたのもすごくうまい。すごくうまいけど恨むぞ。怖いっつってんだろ。
あれだけ強キャラっぽかった経蔵がアッサリ死んでる(よく見えなかったけど下半身がなかった気がする)のも絶望感をあおるし、突然差し挟まれる珠緒視点がとてもおぞましくて怖い。今まで余裕たっぷりに毒舌を吐いていた珠緒みたいなキャラクターが、絶叫するしかないのも怖い。後ろでひっそり復活してる俊雄くんも怖い。
ところで対珠緒が俊雄くんなのは年齢とかウェイトに合わせてくれたの? フェアプレー精神だね。

で、全員死亡を予期させて物語は終わり、最後にさだかや合体バージョンの呪いのビデオが、観客が実際に呪いのビデオを見ているよろしく流れるのですが、わたしはものすごく怖がりなのでここずっと本気で目をつむってました。本気で。ひとかけらも見ていません。だから何が起こったのかは謎。
まあ当たれば続きがあるんだろうなという終わり方だったけど、続きがあったら楽しそうだよね。絶対後悔するから絶対見たくないけど。デーモン小暮閣下の主題歌がなんだかよかった。


という感じでホラーが苦手な身としてはかなり怖く、またおもしろくもある作品だったのですが、周辺事がマジで意味不明でおもしろい。特に貞子のツイッターと伽椰子のインスタグラム。もう本当に意味不明。長閑すぎてこっちにどういう感情を抱かせたいのかまるでわからない。なんだこの親しみやすさアピール。何を狙ってこれを作ってるんだ。
玉城ティナちゃんとファッション誌で共演する伽椰子も相当ハイレベルに意味がわからない。だから貞子と伽椰子に対してどういう感情を抱かせたいの? 親しみ?? 応援上映する??

ただゴーストバスターチームと編集部で行き会って「それはだめ~~」みたいになってる貞子と伽椰子はちょっとかわいかった。
これからは二人でひとつなわけだし、まあ仲良くやっていってよね。
ところで俊雄くんはどうするの? お母さんたちに対抗してデーモン小暮閣下とユニット組む?